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いつも共励会・研究会のチャンピオンへ成功した飼い方をインタビューしていますが、枝肉講評等で失敗した貴重な事例を、聞かせていただいたので紹介し、コメントしました。当然のことですが、原因の正確な特定や対策方法は、食肉衛生検査所の「疾病情報」だけでなく、農場の正確な現場情報が必要であることは、言うまでもありません。
なお、内容は、個人名が特定されないようにアレンジしてあります。
●失敗事例1
1.経過
肥育開始後1年弱で食い止まりがでたので、ビタミンAを投与しました。食い止まりが治らないのでビタミンAを多目に何回か投与しました。結果、2代祖が安福久にもかかわらず、肉質等級3でした。
2.食肉衛生検査所の疾病情報:腸間膜脂肪壊死、腎周囲脂脂肪壊死
3.小職の問診
問診1:素牛の月齢と体重を教えて下さい。
答え:10ヶ月齢400kgでした。いつも、大き目ですが、今回はかなり大きめでした。
問診2:肥育開始時の飼い直しはしましたか。
答え:従来から実施しているように3ヶ月間、配合飼料を抑え、粗飼料を多給していました。
3.原因推定と対策
飼い直しの主要な効果は、①第一胃容積の拡張、②無駄脂の削減(筋間脂、カミ脂、皮下脂が知られています。大き目の素牛は、飼い直しの限界を超えており、内臓脂肪を落としきれなく、腸間膜脂肪の腸管への圧迫による狭窄があったのかもしれません。そのような場合は、ビタミンAを投与しても治りません。むしろ、18~24ヶ月齢での過剰のビタミンA投与は、脂肪細胞分化を阻害するとされています。一方、兵庫県立農林水産技術センターでは黄土粘土(商品名ウシキン)投与による治療例を報告しています。
●失敗事例2
1.経過
食い止まりの観察をマメにして、最後まで配合飼料摂取量が落ちなかったので、途中でビタミンAは補給しませんでした。結果、全身的なシコリでした。
2.食肉衛生検査所の疾病情報疾病情報:胆管炎、膀胱結石
3小職の問診
問診1:脚腫れとかの兆候もありませんでしたか。
答え:外貌には殆ど変化が無かったような気がします。
問診2:強肝剤はどのように投与していますか。
答え:当農場では1年経過ごろの食い止まりが見られることから、22ヶ月齢すぎに強肝剤を与えています。
3.原因推定と対策
肝臓の機能は様々ありますが、肥育に関連する大きなものは①エネルギーの蓄積・放出、②ビタミンAの蓄積・放出とされています。肝臓は「沈黙の臓器」と言われ、臨床症状がなか表れません(同内容の聞き取り事例多数)。肝炎が起きると、知らない間に、ビタミンA欠乏でズル・シコリが起きたり、エネルギー効率が落ちて(血中コレステロールが低下するという報告もあります)脂肪細胞の赤ちゃん細胞が大きくならず、サシ不充分となることもあります。
肝炎は、二つの要因で起こるとされています。一つは、血中ビタミンA濃度の極度の低下であり、もう一つは配合飼料多給によって起こりやすいルーメンアシドーシスです。「血中ビタミンA低減」はロース芯での脂肪細胞の赤ちゃん細胞を誕生させるためには必要ですし、「配合飼料多給」は赤ちゃん細胞を大きくしたり、ロース芯面積やバラの厚さも含めて枝肉を大きくするためには必要なので、肝炎を発生させないために手を抜くわけにはいきません。炎症の程度が大きくなる前に、強肝剤を投与しましょう。時期は血中ビタミンA濃度が低下する19ヶ月ごろと、第一胃内エンドトキシンが多量発生する25ヶ月ごろとされています。
文献)
井上ら(2007)県内産黒毛和種肥育牛の脂肪壊死症による死廃事故の予防、阪神家畜基幹診療所報告
松田敬一(2010)黒毛和種肥育牛に対するウルソデオキシコール酸の長期間低用量投与が血中成分と枝肉成績に及ぼす影響、産業動物臨床医誌1(4)、187-188


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