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1.はじめに
肉牛を取り巻く環境は、近年大きく変化してきています。
(1)【肉質】あっという間に、(公社)日本食肉格付協会のA5率全国平均値が約6割(令和4年8月期)まで、枝肉重量とともに上昇しています。めざましい遺伝的改良や飼養管理技術の改善の成果です。
(2)【牛肉消費】消費面の特徴としては、複合的な要因としてコロナ感染拡大予防のための行動規制で国内の外食需要・和牛輸出先の需要が落ち込んでいますし、食品を中心とする物価上昇で国内外の需要が伸び悩んでいます。
(3)【経営環境】肥育生産者の課題としては、配合飼料価格の高騰で、利益が大幅に減少するも、マル緊発動が限定的(令和4年10月6日時点)で、大きな経営上の問題となっていました。この影響もあり、8,9月の肉用素牛相場は、大きく落ち込みました。
※その後、10月12日付けで肉用専用種でのマル緊(令和4年8月期、概算払い)が発動されました。肉用素牛(黒毛和種)相場も底堅く推移している雰囲気があります。
このような状況のなか、おおむね5年に一回開催されている全国和牛能力共進会(全共)第12回鹿児島大会は、令和4年10月6日(木)~10日(月)に開催され、来場者数も30万8千人(主催者発表)と多くの関係者の方が集い盛り上がりました。小職は、「肉牛の部(8区)」の枝肉を中心に情報収集しましたので、そのことを中心にご報告いたします。各区の記述は、あくまでも個人的な感想を主体としたものであり、決して褒章の価値を言及したものではないことをお断りしておきます。
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2.全体の出品区の構成と賞(概略)の紹介(鹿児島全共HP,関連資料から)
全体は種牛の部、肉牛の部、特別区となっています。さらに、以下のとおり枝分かれしています。
(種牛の部)
(1)1区:若い種牛候補(15~23ヶ月齢未満雌牛)
鹿児島県の県肉用牛改良研究所様が優等賞1席を受賞されました。
(2)2区:若雌(14~17ヶ月齢未雌牛)
大分県の後藤克寿様が優等賞1席を受賞されました。
(3)3区:若雌(17~20ヶ月齢未満雌牛)
宮崎県林秋廣様が体積・均称賞を受賞されました。
(4)4区:3代以上にわたり道府県内で生産されてきた地域の特色を持つ雌牛3頭1組単位
鹿児島県姶良和牛育種組合様が品位賞を、宮崎県の西臼杵支所様が背腰賞を受賞されました。
(5)5区:直系の母-娘-孫娘が3頭1組で出品、改良の成果を見る
鹿児島県の宮園春雄様が優等賞1席を受賞されました。
(6)6区:同じ種雄牛の子である種牛4頭と肉牛3頭の計7頭が1組単位(種牛は17~24ヶ月齢未満。肉牛は24ヶ月齢未満去勢肥育牛)
宮崎県の西臼杵支所様が斉一賞を、兵庫県の美方郡和牛育種組合様が脂質症を㈲江籠畜産様、(株)中山畜産様、新地正清様が交雑脂肪の形状賞を受賞されました。
(肉牛の部、受賞者は後述)
(1)7区:脂肪の質を評価して、新たな枝肉の価値観の醸成を目指す新設区。一価不飽和脂肪酸(MUFA)かオレイン酸の育種価・期待育種価がわかっている同じ種雄牛の産子。24ヶ月齢未満の去勢肥育牛3頭で出品
(2)8区:和牛の美味しさと魅力を追及。今大会から肉量・肉質・脂肪の質を同列で審査。24ヶ月齢未満の去勢肥育牛。
(3)特別区:和牛生産の担い手育成を目的とし、高校や農業大学校で育てられた若雌1頭が出品。14から20ヶ月齢未満の雌牛
鹿児島県の県立曽於高校様が優等賞1席を受賞されました。
大会の主催者挨拶での大会の位置づけ説明や、褒章審査の講評では、「体積と肉質の両立」、「さしの追求から美味しさの追求」、「地域、選抜形質の多様性」が幾度となく聞かれました。新たな育種改良の方向性が声高々と打ち出しされたと感じました。
各区の入賞数から地元鹿児島県が総合優勝を勝ち取りました。
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3.7区(脂肪の質評価区)の所感
全共事務局HPで発表された成績表ならび写真で見比べました(8区も同様)。
(1)評価基準は脂肪融点の低さ、すなわち食べた時の脂の口溶けの良さを中心とした脂肪の質の良さです。
(2)表形値をみると、7区のMUFAの各県3頭平均値は50.0~63.4%に分布し、平均値は57.6%でした。それに対し、8区のMUFAの分布は42.8~64.7%、平均値は55.1%でした。8区に比べて7区の分布はやや高めで、脂肪融点はや低めと脂の口溶けの良さを追求している状況が窺われました。
一般的には、60%を超えると、噛み応えが大きく減少しそうに見えたり、肉のきめしまりが悪くなったりなどのマイナス評価を受けがちですし、50%を下回ると固めの脂肪などの評価を受けたりしますが、写真ではそのようなものは、多くは見当たりませんでした。
(3)上位入賞は、宮崎県の「第5安栄」が優等賞1席、島根県の「百合久勝」が優等2席、広島県の「芳之照」が優等3席、岐阜県の「華清光」が優等4席でした。成績表を見ると、MUFA予測値やBMSが高いものが、上位になっているものもあれば、そうでないものもありました。肉質もさることながら脂肪の質の評価は、ヒトの目視によるものですから、MUFA予測値の数値だけでは表現しきれない要素がまだまだ存在していることやMUFA予測値はあくまでも光学的計測による推定値であり、融点実測値と異なることもありうることが、示唆されました。
(4)通常は、MUFAを高くするためには、当団の「貴隼桜」や「勘太」高ゲノミック育種価系統を取り入れて遺伝形質の改善をしていくことももちろんのこと、濃厚飼料に米ぬかやオリーブ粕などのオレイン酸含有原料を混合給与したりして、さらに30ヶ月齢くらいまで肥育して枝肉を作り上げる事例が多いとされています。本大会の上位成績の枝肉が、まさか24ヶ月齢未満でこれほどのものが仕上がっているとは、驚きでした。BMS以外の評価で多様化させて、消費のいっそうの拡大へ繋がっていくことを期待したいと感じました。
※従来は、脂肪融点は飼料以外の要素では、特にオレイン酸はSCD(ステアロイル-CoAデサチュラーゼ)など関与しており、肥育期間を長くすること改善されるとされています。
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4.8区(24ヶ月齢未満去勢肥育牛)の感想
(1)焦点は7区の脂肪の質に対して、8区はサシを中心とした、枝肉切開面のバランスのとれた美しさや生産性の追求と思われます。なお、大会方針として、肉量、肉質、脂肪の質を同列評価することは従来と異なる点であります。
(2)過去15年間との対比(表1)

⓵平均枝重は第11回大会、第2回大会で大きく伸長しました。
⓶平均ロース芯面積は、指数的に平均枝肉重量の伸びを上回る勢いで、漸増しました。
⓷平均BMSは、第9回から第10回にかけて殆ど伸長しませんでした。これは、2011年3月11日発生の東北地方太平洋沖地震の影響(牛舎倒壊、飼料不足・内容変更、飲水不足などのストレス)だと考えています。ちなみに日本格付協会の2011年から2012年にかけてのA5率も停滞しています。その後、枝重と同様、第11回大会、第12回大会で大きく伸長しました。第10回目の停滞現象から、枝肉重量よりもBMSの方が、環境要因の影響を受けやすいことがわかります。横道に逸れますが、成績優秀な農家は、敷料の早め交換や、牛舎温度の平準化や、新鮮な飼料の給与など、環境づくりに特段の配慮をしています。
⓸②と関連して、A5率は、第12回が驚くべき伸長をしました。とても24か月未満だとは思えない仕上がりで驚きました。出品牛の肥育された時期は、当団のゲノミック評価による選抜改良が事業化し始めたタイミングとほぼ一致しています。
⓹3形質の表形値を比較するならば、(遺伝的改良+肥育技術の改良)の伸びの度合いは、BMS>ロース芯面積>枝肉重量でした。
(3)今年度の褒章選抜
今年度は肉量・肉質・脂肪の質を同列としています。賞内の序列の傾向分析は項目が入り組んでいると思われるので、各賞別単位に項目別の平均値を比較してみました(表2)。

⓵枝重:優等賞と1等賞はほぼ等しく、2等賞は低かった。
⓶BMS:優等賞>1等賞>2等賞の順であった。
⓷ロース芯面積:優等賞>1等賞>>2等賞の順であった。バラ厚:優等賞>1等賞>2等賞の順であった。
⓸MUFA予測値:1等賞≧優等賞>2等賞の順であった。
(傾向解析)
褒章の決定要素について考察してみました。
①枝肉重量が大差ないという認識で、BMSとロース芯面積評価が大きく関与しているように思われました。
②脂肪の質の評価は、MUFA予測値と関連性が薄いようでした。それは7区で前述したとおり、脂肪質に影響する簡易検査によるMUFA予測値以外の要素が関与している可能性があることです。例えば、格付基準の「脂肪色沢・質」以外のスペクトル(色の微妙な差)やテクスチャ(表面の凹凸)の評価です。食肉卸売市場の買参人は長い経験で培われた目視や(ゴム手袋装着の)指先の触感で評価しているとされています。このような観点から、評価方法の確立は今後の課題であると思われました。
③格付け項目の以外で、写真で気づいた点では、上位は僧帽筋が厚いという特徴がありました。このことは、枝肉の迫力が増強されて見えるという意味で東京食肉卸売市場などでよく見られる事例です。
④前述のとおり、前回と比較すると遺伝的改良と飼養管理の改良がいっきに進んだと思われました。後者は、SNS等のマスメディアの貢献があるのかも知れません。
(4)当団の福之姫の評価
⓵褒章3区分のなかで最上位に該当する優等賞での「福之姫」使用率は51.7%でした。8区全体での「福之姫」使用率は50.0%と両者とも驚異的な高率でした。全共で遺伝的多様性を競う大会で、なんとも複雑な気がします。
⓶このことは、平成4年1-6月期の東京食肉市場種雄牛解析事例注)と同様に、高成績ゆえの人気度の指標となっていることが示唆されました。

③今回の成績(表3)で、優等賞平均値と同賞内福之姫平均値を指数化(福之姫平均値/各賞別平均値)比較してみると、枝肉重量は101.2、BMSは100.0、ロース芯面積は100.8、バラ厚は102.5と同等ないし上回る成績でした。1等賞のそれは、ロース芯面積とバラ厚は下回ったものの、BMSは106.6と素晴らしい成績でした。
⓸また、福之姫の評価は頭数が多いため、ほかの(単数で褒章された)種雄牛と比べると
表形値=遺伝効果+環境効果
で表される式の環境効果が理論的にはより小さく、結果として遺伝効果割合が大きいとも考えられます。すなわち、他の種雄牛と比べて福之姫の表形値は遺伝効果により近いものと考えられるのかもしれません。
5.まとめ
(1)コスト高騰の下、増体性(枝重)、BMS,ロース芯面積が優れるものが、求められていることが確認されました。引き続き、当団としては人気の高かった「福之姫」の後続隊を選抜・普及拡大していきたいと考えています。
(2)脂肪の質の評価は奥が深く、需要がある良い脂質の性状解析、計測方法はさらに追求する余地があると思われました。
(3)表形値は育種価を中心に上下飼い方(環境要因)によって振れることが知られています。今後、多くの肥育管理事例を分析し、生産水準の改善に役立てるようにしていきたいと思いました。
(参考)
冨谷尚博:本年1~6月期の東京食肉市場枝肉の種雄牛を見てみました、LIAJ NEWS197号(2022)



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