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不需要期は、瑕疵や肉質不良で販売単価低下が著しくなります。特にロース芯のBMS以外で体脂肪の軟化(物理的に過度に柔らかくなる)、肉締まり不足や脂肪付着過多は歩留等級格落ちのケースも含め、単価への影響が見られることもあります。そこでこれらについて、原因と対応策についてまとめました。
Ⅰ.脂肪の融点低下
枝肉評価では適度な融点低下は「良脂」となりますが、過度な低下は「バラ、カブリ緩い、水っぽい、肉締まりが悪い」評価となります(写真1)。一般的には、オレイン酸/全脂肪酸比55%前後が適度とされることが多いようです。
1.原因
(1)遺伝
融点に影響を与える脂肪酸組成は、品種、血統にも影響されることが、明らかになっています。「脂肪酸組成中のオレイン酸割合」が高いゲノミック育種価の代表的な種雄牛の例として、当団の「貴隼桜(たかはやざくら)」「勘太(かんた)」があります。
(2) 飼料
ア.飼料中オレイン酸の含有量
給与飼料中の融点が低い不飽和脂肪酸のうちオレイン酸は、飼料から枝肉中へ移行することが知られています。そのため、脂肪の口溶け食感を改善(口中ネバネバ⇒サラサラ)することで近年注目され、米粉、生米糠、オリーブ粕、植物性の発酵残渣(DDGSなど)、発酵飼料(稲ホールクロップサイレージ、食品製造かす類)などオレイン酸高含有原料を給与する例が増加しています。脂肪組織や筋肉内脂肪に適度にオレイン酸を含む場合、牛枝肉の切開面の脂肪組織の触感はパサつきなく粘り気が感じられますが、オレイン酸含有率が過度な場合は、脂肪組織の触感は緩く(ブヨブヨ感)、肉の締まりが水っぽく見えがちです。
※肉締まりについて
「肉の締まり及びきめ」は(公社)日本食肉格付協会の牛枝肉取引規格の評価項目のひとつです。きめは筋繊維の断面径サイズの差異を主な起因とした、切開面の平滑さ(凸凹のなさ)の程度を区分表示したものです(後述)。肉の締まりについは、目視での水っぽさの程度を区分表示したものです。枝肉切開面の光の反射が多いと、肉の締まりが良く見え乾いた肉に見えます。反射が少ないと肉締まりが悪く見え、水っぽい肉に見えます。肉屋は経験的に、水分の多い肉は、たん白質が分解(腐敗)しやすい等、日持ちしにくいことを知っています。
イ.ルーメン発酵の脂肪酸割合
濃厚飼料多給(特に、加熱加工の圧扁やペレット)で粗飼料不足時にルーメン内プロピオン酸が多くなると(ルーメンpHが低くいため、ルーメン微生物活性が低くなり、消化管通過速度が速い状況において)、融点が低下傾向となりやすいことが知られています。
(3)環境温度
環境温度が高い夏は、体脂肪の不飽和度が低く、冬は不飽和度が高くなります。さらに、加齢による変動(後述)より大きいとされています。
(4)月齢
月齢とともにSCD酵素(ステアロイル-CoAデサチュラーゼ)活性が活発化し、体脂肪の不飽和脂肪酸割合は高くなります。しかし、ルーメンアシドーシスなどで肝炎を発症している場合は、脂質代謝の中心である肝機能低下により、背脂肪は固くなる傾向があることが知られています。
※筆者も、東京食肉卸売市場の枝肉検品で脂肪固めのものが、食肉検査所の内臓疾病で肝炎・肝膿瘍発症の牛に多いことを経験しています。
(5)体組織の深度
体組織の中心部へ近づくほど不飽和度が低く、体表面に近いほど体脂肪の不飽和度が高く緩くなるとされています。
(6)肥育後半の食いどまり(仮説)
エネルギー充足度と脂肪酸組成に関する研究が見当たらないなかで、あくまでも枝肉検品性状と生産者インタビューの突合せによる、経験的な帰納法的仮説です。
前述のとおり、体組織の外側の脂肪組織ほど不飽和度が高いことは周知のとおりですが、さらにエネルギー充足度との交互作用と関連があるのではないかと考えました。
すなわち、緩くなる症状が進行するプロセスとして①肥育前半の粗飼料不足、配合飼料多摂取で、第一胃の容積拡張が不十分な条件で、皮下脂肪が厚くなります。②第一胃容積不十分なため、体組織が発達した肥育後半で、徐々に濃厚飼料摂取量が、体の発育(維持+発育)要求量に追従できなくなります。特に夏場の暑熱による摂取量低下や密飼い、外傷(アタリ)、ビタミンA欠乏症(ズル、シコリなど)では追い打ちをかけられます。③そうすると、エネルギー代謝の影響を受けやすい皮下脂肪の分解によって、脂肪組織で相対的に水分比率が高まるのではないか(触感は脂肪の不飽和化というより水っぽいテクスチャーに感じ、枝肉に段差がでることが散見されます)というものです。


コメント
私は、主にメスの和牛肥育を50頭程行っている農家です。今回、脂肪が硬いと指摘を受けており改善するためにどんな内容の餌を給与したらよいのか検索していたところ、重要な解説で非常に興味深い内容を購読させていただきました。
餌については、大麦の量が多いのではないかとアドバイスを受けて麦の量を減してみたのですが、一向に改善しません。下記に餌の内容の主なものを記しますので改善策があればご指導をお願いいたします。
記
1.トウモロコシ圧ぺん 30%
2.皮むき大麦圧ぺん 16
3.専管ふすま 16
4.大豆かす 8
5.一般ふすま 10
6.その他
以前は、トウモロコシ、麦、専管は、ほぼ同じ割合でした。
竹脇様
記事の閲覧ありがとうございます。
さて、脂肪の固さについて確認させてください。
(1)脂肪が固いと評価を受けている地域は、西日本ですか、東日本ですか。ざっくり言って西は柔らか志向、東はやや固め志向です。
(2)脂肪が固いと評価されるのは、夏ですか冬ですか。1年中ですか。夏は柔らかめ、冬は固めになります。
(3)症状はいつごろからですか。1年以上前からですか。濃厚飼料を変えてから効果が出始めるまで、最低半年はかかります。
(4)種雄牛は何ですか。安福久などは脂肪が固くなります。
以上のことを教えてください。それで、改善策を提案したいと思います。
早速の返信ありがとうございます。
(1)メスは名古屋の南部市場に出荷してます。買参人から指摘を受けました。
(2)1年を通して硬いです。
(3)1年以上前からです。
(4)種雄牛は、宮崎県種雄牛です。安福久にはこだわってません。
以上、返答します。よろしくお願いします。
追 昨日メールした餌がメインなのですが、JAのモネシンの入った餌を3割程併用しております。とにかく、麦が硬くなるという認識があるので麦を減らしてるのが現状です。また、出荷の3か月前位からホミニーを添加すると軟くなるという情報を得て、ホミニーを10%程度添加してますが、かわりません。
最近は、上物も簡単に出るようになり、さし重視から脂質も重要視するようになった傾向にあるのではないでしょうか。
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方法を考えます。
竹脇様
(1)脂肪に固さは、濃厚飼料なら出荷前半年以前の給与切り替えしてから徐々にかわっていくこと、遺伝などの要因も絡み、濃厚飼料だけの急激な餌の変更は、おすすめしません。
(2)そのような前提で、脂の柔らかさ追求は、融点(固体から液体に代わる温度、例えば氷⇒水は0°です)を下げることです。融点を下げる不飽和脂肪酸は植物種子の胚芽(将来、芽になる組織)に多く含まれます。
(3)原料で言えば、生米ぬか、米粉、ホミニー(トウモロコロシ胚芽粉)などが代表的です。
(4)留意点は、いずれの原料も、第一胃で急激に消化されやすいので、わらを十分与えること等、ルーメンアシドーシスにならないようにすることです。目安で言えば、5~10%。ルーメンアシドーシスは下痢軟便になります。
(5)種雄牛の選定も効果があります。家畜改良事業団のHPをご覧ください。https://liaj.lin.gr.jp/beef/profile?profile=p%e9%bb%921061
ご教授ありがとうございます。今までは3か月を目安に添加してましたので、出荷半年前えから添加を試みてみます。
それからもう1点なのですが、現状は質はもとより量を取らないと経営的に厳しい状況です。メスは濃厚飼料の給与量のコントロールで皮下脂肪がつき易いと思いますが、どういった点を気を付けたらよいのでしょうか。
まーくん
まず、記事「去勢と牝の飼い方の違いについて」で基本的な事項を覚えてください。
もう一歩突っ込むためには、記事「枝肉重量の大型化について」を読んでください。
読む順番を逆にしないようにしてください。※平均枝肉重量が450とれているのであれば、後者から読んでも結構です。
最終的なポイントは肉質等級と枝肉重量の両立です。